現実世界で捕まえて

今日は本社から常務がやってきて、重役室にお茶を出しに行くと平野課長の話が出ていた。

『来週見合いなんですわ。うちの娘が偶然知り合った平野君に夢中になってね、どうしても一緒になりたいとか言い出して、いやー参りますわ』

常務の笑い声が脳内でリフレイン。

やっぱりそうなんだ。
お見合いは事実。
常務は社長の右腕で大きな力を持っている。
平野課長も常務のお嬢さんと結婚すると、出世間違いなしだろう。

『土屋さんのチョコ待っていい?』
ささやかれたその言葉はチョコより甘くて、私の心をトロトロに溶かしていた。

「もう死にたいとか?」
すんごく嬉しそうな声を出し、私の元に駆け寄る死神。
縁起でもないわ。

「まだ死にたくない」
口を尖らせてそう言うと『ちっ』ってさりげなく舌打ちされた。

くやしいーーー!
舌打ちするなーーー!

「もういいよ。私に構わないで」
急に腹が立ってしまい、自分の部屋に逃げ込んでしまう。

広くゴージャスな部屋の真ん中
灯りも点けずに大きなベッドの上で膝を丸めて座り込む。

いくらお金があっても
人の心と運命は変えられない。

運命を変えるには
私が持っているあと4つの武器を使う。

でも平野課長の運命を変えて、私だけをずっと愛し続けて欲しいってお願いをしても、私の残りの半年間は幸せになれるのだろうか。

あと半年もないから
自分の好きなようにしよう!
世の中なんてどうでもいい!

そんな気持ちになれないのは

まだ甘いのだろう。



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