現実世界で捕まえて

初めてみる桜子ちゃんの涙にオロオロしながら、肩をさすったりしていたら

「てるちゃんが……事故ったって」

「えーっつ?」

てるちゃんとは、桜子ちゃんの婚約者で輝明(てるあき)さん。
名前の通り明るい人で、桜子ちゃんを大切にしていて、桜子ちゃんにとっても大切な人。

「てるちゃんの携帯から私に電話がきて、出張帰りで空港に向かっているタクシーにトラックが……」

桜子ちゃんの涙と震えが止まらない。

「早くてるちゃんの所へ行こう。すぐ行って」

「鹿児島にいるの」

鹿児島って九州?

「鹿児島の病院から連絡がきて、あと3時間の命だって……間に合わない」

桜子ちゃんは私の腕に崩れて泣いていた。
薬指にはシルバーのリングが輝いている。

そんな事があるなんて

「今から空港に行っても丁度いい便なんてない。もう……ダメだよ。てるちゃんが死んじゃう」

「大丈夫。大丈夫だから落ち着こう」

自分に言いきかせ、私はパイプ椅子を引っ張り出して桜子ちゃんを座らせた。
パニックでボロボロになっている。

これから幸せになる人なのに。

「今、飛行機のいい時間とか調べてみるから待っててね」

桜子ちゃんに甘い紅茶を入れてから、私は給湯室を飛び出し

経理に向かってまっしぐら。

「西上係長。すいません急用です」

死神の腕を引っ張り
無理やり立ち上がらせて、資料室へと向かう。


「土屋さん凄い度胸」

背中で経理課長がつぶやいていた。

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