現実世界で捕まえて
桜散る

都会に春一番が吹き
ホワイトデーの月曜日。

『亮さんの部屋に行きたい』ってホワイトデーのおねだりをしたけど却下。

どうしてだろう。
そんなに部屋が汚いなら掃除してあげるのに。
ちょっと寂しい。

今夜は仕事終わりに、イタリアンを予約している。
支払いは亮さんだったらいいな。

お金なんか気にしない。だって私の財布は無制限。
でも……いつも支払いばかりしていると虚しくなってしまう。

優しい言葉と笑顔とキスがあって
私を大切にしてくれているから、いいんだよね。
これでいいんだよね。

「専務と常務からでーす」
後輩が女子社員にクッキーを配り始めた。
役員からの義理チョコ返しは、行列のできるお店のクッキー。
丁度3時だから嬉しいおやつ。

仕事の手を止めてクッキーを食べようとしていると

「どうしよう。留美」
消えそうな声を背中に感じ
ふと振り返ると
桜子ちゃんが今にも倒れそうな顔で立っていた。

真っ青だよ。どうしたの?

「どうしよう。どうすればいいの?」

いつも冷静で強気な桜子ちゃんが泣いている。
ポロポロ涙を流して泣いている。

「さっ桜子ちゃん?」
こっちの方がビックリだよ。

私は桜子ちゃんの肩を抱いて、給湯室へ滑り込む。

よかった。誰もいない。


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