現実世界で捕まえて

大きさは違うけど
同じ内容で同じ配置のお弁当をそれぞれ持ち
春を感じながら箸をつける。

死神と春を感じてランチって
妙だけど
心が落ち着く。

この春の香りを忘れないでおこう
もう次の春はない。

「今日から一緒に帰っていいですか?」
デザートのリンゴをかじりながら
ずっと遠くのマンションを見て、死神にそう言うと

「残業せずに帰れますか?」って笑われた。

最近
よく彼の笑顔を見る。
もしかしたら
色々と気を使ってくれてるのかな。

「今日は残業なしで帰ります。ご飯食べて帰りましょ」

「ひき肉を解凍してきたからダメです」

「ハンバーグ?」

「じゃがいもと合わせてマヨネーズで焼こうかと」

「それ食べたい」

「では決定。5時に終わらないと先に帰ります」

ドS係長は【待つ】という言葉を知らないらしい。

会社では
私と死神こと西上係長が、アヤシイと噂が立っている。
桜子ちゃんだけひとり喜こぶ。

まぁ間違いなくアヤシイ仲ですけど。

今も並んでお昼に出て行ようとすると、会社の人達にすんごい目で驚かれた。

『あの鬼畜でドSな係長と付き合ってるの?信じられない。土屋さんどんな神経してるの?』

みなさん。心の声がもれてますよ。

死神は時計を見ながら「そろそろ戻りましょうか」って私に言う。

まだ不機嫌ですね。
私の4つ目のお願い事がそんなに気に入らないのか?

「男性としては生き地獄だと思うけど」

さりげなく言うと「甘い!」って怒られた。

でもきっと

今頃

会社で平野課長は叫んでるよ。


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