Polaris
「────はい、じゃあ900円ね」
「はい、ありがとうございましたっ!」
「あれ、お姉ちゃん!お釣り!」
「あ、大丈夫です!ありがとうございました!」
JEC本部の前に止まったタクシー。
私はいつもなら絶対にしっかり受け取るお釣りを受け取らず、また急いで走り出した。
JEC社内へと入り、たくさんの人の中にイツキを探す。
「イツキ……」
会いたい。会いたい。会いたい。
私はイツキに会えるよう、心の中で何度となく願った。
すると、その願いが通じたのか、それともただの偶然か、私の会いたい人がいた。
「え⁉︎ 嘘……唯川さん」
私の視線の先。そこにはとても驚いた顔をしているイツキがいる。
イツキはきっと、怪我をしたはずの私がどうしてここにいるのかという意味で驚いているのだろう。
でも、私はそんなふうに驚く彼を無視して近づくと、彼の両肩を手のひらでドンと押し叩いた。