ドルチェ セグレート
「遅くにごめん。電話より、会った方が早い気がして」
「諏訪さん……!」
 
驚嘆して声を上げてしまう。

だって、目の前に立っていた人が諏訪さんだなんて、誰も予想なんかできない。

「な、なんで家(ここ)が……」
 
戸惑いながらも、疑問に思ったことを小さく口にする。諏訪さんは、頭を掻きながら視線を斜め下に落とした。

「いや。だいぶ前、飲み会帰りに、タクシー相乗りしたの覚えてたから。あ、ストーキングなんてしてないぞ。オレは至って真面目だ」
「いえ……。誰も、そこまでは」

こんなときまで茶目っ気を忘れない姿勢は、〝さすが諏訪さん〟としか言いようがない。
けれど、私は生憎それに乗っかれるほどの神経ではいられなくて。

目を瞬かせて、戸惑いながら答えるのがやっと。

「って、冗談は置いといて。いや、なんか、さっきの電話が気になって」
 
すると、再び真面目なトーンで言われ、返答に困ると視線を泳がせた。

「いえ。その、ただの勘違いで」
 
作り笑いは出来たけど、目を見て言えない。
そんな私の態度で、すぐになにかを察したんだと思う。

諏訪さんは少し黙って、ジッとこちらを見続けた。
その視線と向き合えずに、唇を引き結ぶ。

「まーいいや。せっかくだから、ちょっと時間いい?」
 
そう尋ねられ、ドキリとした。反射的に目を向けると、昨日と同じ、真剣な色を浮かべた瞳に捕まる。
 
ダメだ。今、諏訪さんといる時間が長引いたら、神宮司さんが……。
 
頭を過った考えに、一瞬流されそうになる。
けれど、思いとどまってグッと顔を背けるのを堪えた。
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