ドルチェ セグレート
「ちょっと! なんですか、いきなり話に入ってきて! それに、言ってたこともなんだか私的には微妙なんですけど!」
「は? オレの愛が伝わらないの? 全力で褒めたのに」
「いや。全然、伝わりません」
 
本当は、最後の視線はちょっと伝わってきたけど。
照れ隠しもあって、強気に返しプイと顔を背けると、溜め息交じりに失笑した声が聞こえてくる。

「河村のいいとこ知ってるのは、オレだけじゃなかったってことか」
 
フッと弱々しいような笑顔で天井を仰ぐと、そのまま目だけを私に向ける。
それは暗に、神宮司さんのことを指してるのだとわかると、途端にまた気まずくなった。

「あーあ。俺としたことが、出遅れたからなぁ」
 
頭の後ろに手を組んで、目を閉じた諏訪さんはわざとらしいくらいに嘆いた。

「……そういえば、似たようなことを前にも言い掛けてましたよね? あれ、なんだったんですか? 本社で会ったときの――」
 
ふと、そんな話が途中だったことを思い出した。
あのとき、『カッコイイ』って言われたのが意外だったから気になっていた。

諏訪さんは、目を開くと、眩しそうに窓の外を眺める。
それは、まるで、あの日のことを思い出しているかのように。

「あの日。オレがお前の恰好を指摘したら、少し考えたあと、オレに言ったんだよ。『後ろ向いて、壁になっててください』ってね」
「えっ。そ、そんなこと言いましたっけ?」
 
振り向いて慌てる私を見ると、肩眉を下げて、可笑しそうに笑う。

「初めての本社で右も左もわかんないし、挙句時間もなかったからだろ。その場でお前は跳ねてた髪をひとまとめに直して、バッと服も着替えてたよ」
 
諏訪さんは踵を返し、出口へと向かった先でぴたりと足を止めた。

「潔さがインパクト強かったな……。恥じらう姿より、ずっと印象的だったから」
 
それだけ言い残して、諏訪さんは私を置いて出て行った。

「そんなふうに言ってくれる人、あんまりいないですよ」
 
もう誰もいない室内でひとり漏らすと、心の中で『ありがとうございます』と付け足した。


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