太陽と月の行進曲
後ずさる関口の胸ぐらを勇樹が掴んで引き寄せた。

「はっきり話せや! 男だろうが!」

「や。ちょ……」

「木村君と加藤さんが、クリスマスまでにちゃんとつき合えるか賭けをしていたの!」

松尾の声に、勇樹は隣に立っていた彼女を見た。

視線で人を殺せるのであれば、松尾は一瞬で死んでいただろう。
それくらい冷酷で残忍な光が、今の勇樹の瞳には宿っていた。

「なんだって?」

「ごめんなさい! 止めたのよ! 木村君は真剣なんだから、賭けにしちゃいけないって! ごめんなさい! きっと加藤さん誤解して……」

謝る松尾から、勇樹は青ざめた関口に視線を戻す。

「委員長。一つお願いがあるんだけどさ」

「な、なに? 何でも言って?」

「殴らせろ」

言った瞬間に、勇樹は思いきり関口を殴り飛ばした。

関口の身体が吹っ飛んで、コンクリートの壁にぶつかり、反動で弾む。それから地面にズルズルと落ちていった。

「ふざけるな! お前らやっていい事と悪いことがあんだよ!!」

半開きの『ちぐさ』の入り口から見ている一同を睨みつけて、歯を食いしばる。

聖美が泣かされた。殴る理由なんてものはそれだけで良かった。
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