雪降る夜に教えてよ。

饗宴

*****


思えばいつも桐生さんは強引で、訳わかんなくて、仕事に対しては真剣だけど、たまにふざける人だった。

そしてそれは、プライベートになるとけっこう助長される。

土曜日。待ち合わせにはかなり早い午前中からスマホの着信音に叩き起こされ、桐生さんは私の部屋に上がり込んだ。

いや。正確には私が上げたんだけど。

「これを着てくれる?」

イキナリ箱を突き付けられて、キョトンとする。

シャワーを浴びて洗顔なども終わらせたばかりとは言え、起きぬけに近く、正直言って思考回路がうまく繋がっていない。

えーと。白い箱にアルファベットで金色の文字が入っている。

これは服?

桐生さんはソファに座って動かない私を見ながら、清々しい笑みを見せた。

「……なんなら、俺が着替えさせてあげようか?」

着替えさせて……?

「とんでもない!」

「じゃ、早く」

慌てて箱を持つと寝室に入った。

てか、何を考えてるんだろうか。

箱を空けて、ますます深く考える。

出て来たのは、黒のオーガンジー生地を幾重にも重ねた黒のAラインのキャミワンピ。
胸元に小さく着いた赤い薔薇が可愛い。

それから黒のボレロ。サイズぴったりな組みひものサンダル……って。

寝室から顔を出し、桐生さんを睨みつけた。

「どこで私のサイズを調べたんですか!?」

桐生さんはコーヒーメーカーを見つけて、勝手にコーヒーを落としながら顔を上げる。

「靴のサイズは佳奈ちゃんからだよ。後はなんとなく。ワンピースだから、多少合ってなくてもどうにかなるよな?」

……なる。私はいわゆる標準的な体型だから、悲しいかな、出過ぎるところもない。

呆れた顔を返してから、また寝室に戻る。

ただやっぱり男の人だよね。これ着るにしても、肩紐無しのブラなんぞ持ってないんですけど……なんて言える訳ないし。

仕方なくタンスの引き出しを物色して、黒の下着セットを取り出した。

去年か一昨年、佳奈にプレゼントされて、しまい込んでいたもの。
だって黒なんて着けたら、ブラウスから透けて見えちゃうし。こんな時でもないと身に付けないかなー?

キャミワンピを着て、その上にボレロを羽織る。

じっと姿見を見て首を傾げた。
ちょっとシンプル過ぎるような気がするなぁ。

考えていたら手に何か当たる。
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