雪降る夜に教えてよ。
どこか焦ったような、驚いたような彼を見上げてきっぱりと言葉を紡ぐ。

「帰るんです」

「隆幸は? 一緒じゃないの?」

「一人で帰れます」

「駄目だよ。ここから街まで何キロあると思ってるの。僕が送るから──……」

溜め息をついて、目を細めた。

よく見ると、桐生さんとそっくりな顔。ちょっと、裕さんの方が鋭いかな?

「どうにかなりますから、心配しないで下さい」

「でも……」

「もう、誰かに頼らなきゃいけない子供じゃないんですよ」

そう言って、人の間をすり抜ける。

入口に、ルイ氏と桐生さんの姿が見えた。

『サナエ! 靴はどうしたんだ靴は!?』

驚かれて微笑む。

『どうしちゃったんでしょう?』

『何があったんだ? ユキは答えてくれない……』

『ご招待有難うございました』

丁寧に頭を下げて、桐生さんの横を無言で通り過ぎた。

何もかもが煩わしい。

煩わしいと思う自分が笑えて来る。

月明かりに照らされた舗装道路を歩きながら、クスクスと笑う。

笑って、心で泣いた。













第三章 完 最終章へ続く
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