雪降る夜に教えてよ。
『いつから?』

きっと思っていたよりも最初から。だから最初から警戒してた。

『何故?』と、またどこかで聞いたことがあるような声が聞こえる。

きっと、私は幸せになれないからかな?

『本当に?』

もう、疲れたよ。いちいち説明するのも。

だから、私は目を開けた。

見上げると、混乱した桐生さんの瞳が見えた。

そんな目も願いさげだ。

『……けっこう重宝するんだ。笑ってると、怒っていても泣いていても、たいがい気付かれない』そう言っていたのは“彼”だ。

だから笑う。にこやかに、軽やかに微笑んで首を傾げる。

「ありがとう」

夢を見させてくれてありがとう。

「……さな?」

「さようなら」

あなたも、元に戻ってね?

背を向けて階段を降りる。

「早苗……すまん。お前……」

西川さんに声をかけられ、彼を見た。

「もう、いいよ」

一言で終わらせて通り過ぎる。

会場へ戻ると、普通のやり取りが続いている。

これが虚像なら、なにもかも全ては夢だ。

微笑みながら、思っていたよりしっかりとした足取りで、恵理子さんが座っている長椅子に歩いていく。

「早苗さん。大丈夫? 隆幸は?」

理由など知らないだろう、恵理子さんに微笑んだ。

「はい。本当になんともなくてよかったです」

そう言って、ハンドバックを手に取る。

「あら。どこに行くの?」

「帰ります」

サンダルを脱いで、長椅子の下に揃えた。

「これ、彼が来たら返しておいてください。服は……脱ぐわけにもいかないから、お借りしますと伝えていただければ」

驚いたように恵理子さんが私の手を取る。

「どうしたというの? 何があったの?」

「何もないです。ご招待ありがとうございました」

そう言って手を離すと会場を歩き始める。その行く手を、今度は裕さんが止めた。

「秋元さん。裸足でどこに行くんだ?」
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