雪降る夜に教えてよ。
中には『なんだかわからないけど、ボタンが押せない』なんて言う問い合わせもあったりして失笑してしまうんだけれど。

お客様に、どれがシステムトラブルでどれがそうじゃないのか解れと言ってもしょうがないしね。

なんかおかしい、なんか解らないけどシステムがおかしいんじゃないか、と言うノリでメールを出すのは頷ける。

ただ、いつもながら異常な量のメールだなぁ。

「今日も大変そうだね」

声をかけられて視線を上げた。

私の席はブース内でも中央付近。桐生マネージャーの席は窓際の片隅。

パーテーションで仕切られた席から身を乗り出すようにして、桐生さんの微かに笑っている表情が見えた。

「なんでこんな変な割り振りするんだろうね? システム系なら、他にもいるのに」

知りませんから、そんなもん。

「どのメンバーも、似たり寄ったりの件数が来ていますよ」

「数はね」

桐生さんはそう言って、ちらっと自分のパソコンのモニターを見る。

何を見ているんだろう? 思った瞬間に、ガチャリと音がして背後のドアが開いた。

「あ~。寒かったぁ」

そう言って、現れたのはショッピングデスクのお局様軍団。

今日も華やかに香水がキツイですね。

ちらっと私の存在を確認して、お局様たちは窓際に満面の笑みを向けた。

「あらぁ。桐生さん。おはようございますぅ。早いですねぇ」

「おはよう。土橋さん」

桐生さんは素早く椅子に座り直して、土橋さんに微笑んだ。

ビリビリと感電しそうなほど、甘い笑みだ。

「いつもより早く出たのにバス満員で、すごかったですよぉ。桐生さんは平気でしたかぁ?」

「僕は車だから」

「あ。知っています~。黒のスポーツカーでしょう?」

知っているなら聞くなよ。

そんな茶々を心の中で入れながら、我関せずの姿勢でメールを眺めるけれど、誰もいない時間帯に彼女たちの甲高い声がよく響く。

「でも、この雪で大変だったんじゃありません~?」

「僕も早めに家を出ましたから」

ああ、なるほど。それで私より早かったんだ。

「もうお仕事されていたんですかぁ?」

そう言って、近づこうとする土橋さんを、片手を上げて霧生さんは止める。

「申し訳ないけど、見せられません」

笑顔ながら毅然とした態度に、土橋さんも躊躇して立ち止まった。
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