雪降る夜に教えてよ。
社内のシステムを管理している人のパソコンを、おいそれとは見せられませんよね。

しかしまぁ、お局様たちはよく喋ること。

ちらほらと出社して来ている社員たちなど、まるで構わずに喋りまくる。

タイムカードを押すギリギリまで、桐生さんのデスクの回りに陣取って話しているんじゃなかろうか。

そう考えていたら、手元の外線電話が鳴った。

「ヘルプデスク秋元です」

『あ~……秋元ちゃん?』

聞こえて来たのは、我がヘルプデスクの主任で、浅井さんののんびりとした声。

「はい。秋元ですが」

『まともに出勤している、ヘルプデスクの子たちは何人いるかなぁ?』

言われて、私は辺りを見回す。

「土橋さん、朽木さん、山貫さん、我妻さんと私ですが」

『あー……ごめんね。システムヘルプは?』

えーと……。

「秋元さん。今、電話で棚橋さんとこ電車が不通になって欠勤。同じく早良さんも電話があった」

遠くから聞こえた桐生さんの声に固まる。

あたりを見回すと、遅刻や休みの電話が殺到しているようだ。

「あの……。どうやら、私だけの様なのですが」

『まずいなぁ』

「どうかしたんですか?」

『いや。ちょっと事故に巻き込まれちゃって。僕は今、病院なんだよね』

「ええ⁉ 大丈夫なんですか⁉」

『足、挟まれちゃってさ……。とにかく、今日のシステムヘルプの仕事量半端じゃなかったでしょ。昨日の帰りに確認した感じじゃ、全部で五百件近くあるはずなんだけど……』

五百件……。

固まってしまった私の肩に、誰かが触れた。

「もしかして、電話、浅井さん?」

慌てて振り返った先に、桐生さんのドアップ。

「うぎゅ……」

奇妙な声を出してしまった私に片眉を上げて、桐生さんは無言で受話器を取り上げた。

あ~……。びっくりした。

落ち着こうと胸を撫で下ろす私の横で、桐生さんが浅井さんと話している。

「はい。まぁ、見ていました……。それで? ああ。そうか……わかった、なんとかしてみます」

桐生さんは受話器を戻すと、ちらっと私を見て微笑んだ。

「ちょっと待っていて貰えるかな?」
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