雪降る夜に教えてよ。
……なんか嫌な予感がする。

「残業続きになってしまうと思うんですが、どなたかアシスタントについて欲しいと思ってまして」

「秋元さんが適任だと思います。うち終電早いし」

棚橋さんが微笑みながら手を挙げる。

それはちょっと待って?

「うん。SE入社の秋元ちゃんが適任でしょ。私は主婦だから残業困るし」

早良さん⁉

「やたら専門スキルあると思ったら、秋元さんはSEで入社してたんだ」

や。桐生さんが感心するところじゃないし。

「じゃ、よろしく?」

や。よろしくされても、けっこう困る。

「SEスキルなら早良さんの方が……」

そもそも結婚してお子さんも産んだから、激務のSEではない部署に配置換えされた早良さんなんだけど、一年もSEとして働いていない私より……。

言いかけた時、早良さんの足がさりげなく私の足を蹴る。

ううう。ヘルプデスクの裏の姐御には敵いません。

「……よろしくお願いします」

ボソボソと言う私に、桐生さんはちらっと満悦の笑みを見せた。

それは一瞬にして清々しい笑顔に変わったけれど。

「じゃ、早速今日からよろしく。秋元さん」

何だか謀られた気がするのは気のせいでしょうか?

訝しむ私をよそに、早良さんと棚橋さんの小声の応援が飛んでくる。

「買い物軍団の押さえは任しておいて!」

「頑張ってくださいね! 秋元先輩! お近づきになるチャンスです!」

それはどういう意味の応援ですか!





***




でもすぐに私が桐生さんのアシスタントを勤める、という噂は広まって、早良さんは苦笑いをしていた。

「さすが桐生マネ?」

誰のせいだ誰の!

「ほれ、いつものポーカーフェイスで頑張りなさい」

さすがにイラッとして早良さんを睨むと、肩を竦めて仕切の奥に消えた。

今日の私のノルマは九五件で、やたらに小難しい返信が多い。
にも関わらず、人間やれば出来るもので、十五時には全てやり終えた。

それからこっそりと、シス管のブースでもあるパーテーションに近づいてノックする。
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