雪降る夜に教えてよ。
「あとで考えることにする」

「早めの方がいいよぅ?」

それから、ちらほらと出来上がった恋人同士が会場から消える頃、忘年会はお開きになった。

「秋元さん、秋元さん」

ザワザワとホテルのクロークに流れる人の影から、桐生さんが身を低くして近づいて来る。

「……俺、十階のバーにいるから、コートとバック、持って来てくれないかな?」

「え? どうして私が……」

と、同時に耳に入って来たのは桐生さんを捜す、お局様軍団の声。

「頼む!」

言うなりクロークの番号札を私の手に預け、人ゴミに紛れるようにして消えた。

ああ、そうか。背が高いから、見つからないように屈んでたんだ。妙なところに感心して、私はクロークに近づく。

「ちょっと秋元さん!」

呼ばれて振り返った先に、恐い顔の土橋さん。目に鮮やかすぎるピンクのドレスワンピに思わず引いた。

「桐生さんはどこ?」

「……見ての通りですけど」

土橋さんと黙って静かに見つめ合う。

「そうね。あんたに聞いた私がどうかしてたわ」

そう言って、また桐生さんを捜しに離れて行った彼女を背に、私は自分の荷物と、桐生さんの荷物を手に持った。

嘘はついていないよ。現状を見て“いない”って彼女が判断しただけだもんね。

でも、土橋さんに声をかけられたのが、荷物手に持ってる時じゃなくてよかった。

黒いロングコートと白いピーコートを両手に持ちながら、おそらくパソコン入ってるケースとハンドバックの出で立ちで、さすがに言い逃れは出来ない。

二次会組と、にわか恋人組の間を通りながらロビーを横切って、念のために非常階段を一階上がる。
会場は三階だから、そこからエレベーターで上に上がると悪目立ちしちゃうし。
四階からエレベーターに乗って、言われた通り十階のバーについた。

「ごめん。助かった」

バーのボックス席で荷物を桐生さんに渡し、私は苦笑する。

「もっとうまい逃げ方はなかったんですか?」

「あまり思いつかなかったなぁ。って、わけで飲み直そう?」

「えぇ? 私、今日はすでに飲んじゃってますし」

「大丈夫だよ。夜は長いし、一人で飲んでもつまらないし」

だから、困るんでしょうが。

「じゃ、土橋さんを連れてきましょう……」
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