雪降る夜に教えてよ。
だいたい、いつから“つきあい始めた”ことになった、と言うつもりですか? 泳いだ視線の先に、肩を震わせている裕さんが入った。

「なるほど、変わり者で強情なお嬢さんに、隆幸は片思い中と言うところか」

「うるさいんだよ。お前は仕事戻れよ、オーナーがサボっていいのか!」

「仕事してるって」

そう言って、裕さんは目の前のピンクのカクテルを示す。

「明日のイヴに、女性にサービスとして提供しようと思いまして……試飲して頂けますか?」

綺麗な色だけどお酒でしょう?


ちらっと桐生さんを見たら、片眉をあげ、指で少しだけのサイン。

ひんやりしたグラスを持って、ちょっとだけ口に含む。

うーん。口あたりはスッキリ甘くて美味しいんだけど。グラスを置いた私に、裕さんが首を傾げる。

「私には、お酒が強すぎに思えます」

桐生さんがグラスを手に取り、少し匂いを嗅いでから一口飲む。

「うん。秋元さんはそっちの透明な方を飲んで、このカクテルだと後で酩酊確実だ」

そんなに強いですか。驚くと明らかに裕さんが笑って頷いた。

「イヴだしそういう目的のカクテルなんだけど、お酒の味がばれるようなら駄目だな」

つまり、女性を酔わせるためのカクテルですか!!

桐生さんがグラスの中味を飲みながら、無言で裕さんの頭を叩く。

仲がいいんだろうけれど、どうなんだろうか?

「や。私はお酒が強くないので、私の友達なら喜んで飲むと思います」

慌てて手を振る私に、桐生さんは頷く。

「佳奈さんの事なら、あの娘は歯止めが効かなくなりそうだ」

確かに。

私は桐生さんに勧められた方のカクテルを何げなく飲んで、それから瞬きする。

あまり甘くないけど甘い? 白桃みたいだけど、ミントキャンディーみたいなさっぱり爽やかな甘みがあって、でも、くどくない感じ。

「不思議な味ですね」

「気にいった?」

ゆったり微笑む桐生さんに頷いて、小首を傾げた。

「はい。好みです」

「俺は?」

俺は……? 絶句した私に、今度は桐生さんは静かに頷く。

「予想通りの反応だ」

「……なんなんだ、お前たちは……」

裕さんは少し呆れたように私と桐生さんを見た。

や。私もよく解らない人だし。なんだと言われても困る。
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