雪降る夜に教えてよ。
何が……?
そう思った瞬間に、桐生さんが私の耳の後ろにキスをした。慌てて振り返る先に、真剣な表情が見え……。

何が起こるかは解っていた。理性では避けなさい。 感情では受け入れなさい。互いに心が入り乱れ。

結局、私は感情を受け入れた。

ゆっくりとかさなる唇。暖かい温もり。最初は躊躇うように。

私を支える腕に力がこもり、強く抱きしめた。次第に深く、強く、探るように。

「……んッ……」

絡み合い、吸い上げられて、少し怯む。

それを察した様に、桐生さんは私の髪に手を滑らせて、宥めるように撫でてくれた。

もう、駄目かも……目を瞑りながら眩暈。気が、遠くなりそう……。でも、心地よくて。心地いいけれど心の中は騒めく。

ぎゅっと彼の腕にしがみついた瞬間、ガラリと聞こえてきたサッシの音と、

「明けましておめで……って失礼しましたぁ!!」

瞬きした視界の端に、慌てて逃げる佳奈の後ろ姿と、同時に聞こえたピシャリとサッシの閉まる音。
そして、ゆっくり離れる暖かい唇。

「……すごい友人だな」

低い呆れた桐生さんの声に、頬が熱くなる。

それを少し楽しそうに笑って、桐生さんは私のおでこにキスをした。

「ゆでダコだ」

「……っ‼」

思わず顔を伏せたら、そのまま腕の中に抱き込まれる。

ど、どうしよう? 私、どんな顔して桐生さんを見ればいい?

「落ち着いて。普通に普通に……」

優しい声に、ゆっくりと顔をあげる。そこに、少しはにかんだような桐生さんがいた。



それから部屋の中に戻ると、男性陣は正月だからと花札を始め、私はカウンターキッチンの中で、ちょっと遅い年越し蕎麦を作るため、長葱を刻んでいる。

ホントなら、年を越す前に刻んでいる予定だったんだけど、予定は……予定は自ら変えたわけなんだけど……とにかく刻む。

「ごめんねぇ、ごめんね」

佳奈に懐かれながら。

< 58 / 162 >

この作品をシェア

pagetop