雪降る夜に教えてよ。
「早良さん。何をするつもりなんだろう」

「さぁすがぁ。早良姉さんだねぇ」

「男前だ」

私、佳奈、夏樹君の順番で、それぞれの感想を呟き眺めていると、次第にお局様軍団のメンツが一人、また一人と潰れていって……。

最後には呆然とした新人数名と、早良さんと、桐生さんだけが残っていた。

「はっはぁ! この早良に飲み競べで勝とうなんて、十年早いんだよ!」

いや、十年も何も、早良さんだってまだ二十九じゃ?

ポカンとしているうちに、桐生さんが恐る恐る早良さんを窺いながら歩いてきた。

「俺、あの人は敵に回したくないと痛感したよ」

半分呆れたように呟き、私の手からお茶のペットボトルを奪って飲み干してしまう。

「ああ。全部飲んじゃった」

「喉渇いてたんだ。甘すぎの玉子焼きだの、しょっぱいおにぎりだの、散々食わされた」

桐生さんは戻ってきた早良さんを振り返り、軽く手を振ると、私の方を見てクイッと顎を動かした。

「少し歩こう」

佳奈と夏樹くんをちらっと見て考える。

「みんなで、でいいですか?」

さすがに、この状況で二人で歩き始めるのは悪目立ちするわけで、変な噂になるのは目に見えているし。

肩を竦める桐生さんを見て、それぞれバックを持って立ち上がった。

早良さんは荷物番をしながら、ゆっくりすると言って手を振っている。

「さっき聞いたんだけど、あっちに桜の並木があるらしいよ」

それはちょっと見てみたいかもな~。

両手をズボンのポケットに引っ掛けて歩く桐生さんの隣を歩きながら、ぼんやり桜の花びらが舞う姿を眺めていた。

薄紅色というよりも、殆ど白に近い花びらが、フワッと風に流れ、くるくる敷積もって行く様は、見ていて飽きない。

「気に入った?」

こくんと無言で頷いた私に、桐生さんは黙って微笑んでくれた。

のんびりとした風景は、白と言うよりも薄桃で、どこかのどかで優しいと思える。

だけど、のんびりしていない人は中にはいるわけで……。




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