雪降る夜に教えてよ。
桐生さんがぼやくように呟いて、パーテーションの外の様子を一度確認してから首を振った。

「直すスキルがあっても、物がなければ仕方ありませんよ」

「確かにね」

「ところで桐生マネージャー。後一時間で定時です」

おしゃべりしている暇はない。

彼は無言で苦笑すると、自分のモニターに向き直った……けれど、ノック代わりにパーテーションがノックされる。

「あっ。はい!」

慌てて顔を上げると土橋さんが立っていて、キッと私を睨み、気を取り直したように桐生さんに向かって笑顔を振り撒く。

とっても器用だ。

「桐生さん。よろしいでしょうか」

桐生さんは眩しいくらいの営業スマイルで土橋さんを振り返り、小首を傾げた。

「今、忙しいです」

今、手を止めて無駄口叩いていた人の言うことでしょうか? 心の中でツッコミを入れる。

「いえ、あの、杉本室長からのご伝言で、今晩このフロアで飲みに行きませんか?」

「や。僕は車ですし」

「我妻さんのお祝いなんです」

我妻さんて、お局様軍団の一人だったような。

思わず聞き耳を立ててしまう。

「来月、結婚退職されるので、そのお祝いを内輪でやろうという事になっていたんですけど。シス管も今日は定時あがりですし」

ああ。なるほど。
お祝い事のお誘いじゃ、マネージャーである桐生さんは行かないとね。

私には関係なーい。と聞き流していたら……。

「……秋元さん。今日は用事はあるかな?」

爽やかな声に手を止めた。

もしかして、私を巻き込む気ですか。

恐る恐る振り返ると、土橋さんの厳しい視線に、桐生さんの企み笑顔。

「今日は残業予定だったから、もちろんないよね?」

もちろんございませんけれどね?

「では、『シス管』で参加しますと、室長にお伝えください」

空々しいくらい爽やかにそう言って、桐生さんは土橋さんに背を向けた。

もうちょっとフォローしようよ!

もちろん、土橋さんは私を八つ裂きにしたい! みたいな視線を送ってきてました。





< 99 / 162 >

この作品をシェア

pagetop