甘々王子と黒王子
自分の目の前に立っている二人の異性。

先輩が何で二人いんの!?

「恵ちゃん。少し落ち着いて」

制服姿のいつもの先輩に言われ、深呼吸をして落ち着こうとする。

「驚かせてごめんね」

「い、いえ」

「おい涼(リョウ)、
お前が勝手に入ったのも悪いんだから謝れ」

「ヤダね。準(ジュン)
そんなに俺と会わせたくねぇんならこんなとこに放置しとくなよ」

涼?準?

聞き覚えのない名前が出てきたことに戸惑う。

いや、一人の名前は知っていた。

浅賀 涼

浅賀先輩のフルネームだ。

けど、

いつもの先輩が相手を涼って呼んでてもう一人の方が先輩を準って呼んでる。

夢がまだ続いてんの?

「恵ちゃん」

「ひゃい」

あっ

噛んだ。

だけど先輩はそれを気にすることなく言葉を続けた。

「これが僕の秘密」

どれでしょうか?

「僕は……
僕達は一日おきに交代で学校に通っているんだ」

はひ?

交代で学校に通っている?

「ちょっとした手違いで僕の願書だけ提出されなかったから仕方なく交代で通おうってことになったんだよ」

でも交代か。

交代…ん?交代ってまさか……

「じゃあおとといのあれは……」

「ごめんね
涼の方なんだ」

なら告白したあの日も涼先輩の方ってこと?

あの扱いの差はそのせい!?

「恵ちゃんが勘違いして嫌われてると思うんじゃないかって心配だったんだ」

はい、

思いっきり勘違いしてました。

嫌われてるって思ってました。

だからめっちゃ今安心してます。

「だったら先輩は私のこと嫌いってわけじゃないんですか?」

「うん、むしろ……」

「好きだってよ」

「涼!」

私としてはそうとう勇気が要ったんだけど、

あの涼クンとやらが口をはさんできましたよ。

「ところで、
明日はどっちが……」

「俺の方だァ」

チッ

「残念だけど今日涼に変えてもらったから明日も明後日も涼なんだよ」

「分かりました。
じゃあまた明々後日に」

「俺が行くぜ」

「私が会いたいのは準先輩の方ですから!」

「恵ちゃん、
送って行こうか?」

先輩から嬉しい申し出。

だけど

「大丈夫です」

「そう?
それなら玄関まで、ね」

「ありがとうございます」

「俺も」

あんたは要らん!

心の中で毒づいた。

準先輩も同じことを考えたのか、目で邪魔だと言っているのが分かる。

でも涼(ヤツ)には通じなかったのか、涼しい顔。

しょうがなく私は二人に玄関までついて来てもらい、そこで別れた。

その夜私がベッドの中で夢じゃありませんようにと祈ったのは言うまでもない。






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