ウサギとカメの物語 番外編


新入社員歓迎会で声をかけてくれたこと。
先輩にしごかれてぐったりしている順の姿。
やっと新しい契約を結べたと喜んでいる笑顔。
2人で初めてご飯を食べに行った日。
飲んだくれて終電を逃してネットカフェで一晩を過ごした日。
2人で海に行った日。
私の愚痴を真剣な表情で聞いてくれるところ。
いつでも励まして、味方になってくれたこと。


順を好きだと自覚した日のこと。


あの時から私はずっとあなたに「好き」と言ってもらえる日を、待っていたんだ。


「私は嫌。仲のいい同期のままなんて、絶対嫌。だから、順……」


ちょっとだけ胸が詰まりそうになる。
こんな感覚、初めてだ。
相手に好きだと伝えようとするだけで、こんなに切なくて愛しくてたまらない気持ちになるなんて。


「私もあなたが好き」


順の顔がほんの少し驚いて、戸惑って、そして意を決したように口を結んだのが見えた。


タイミングがいいのか悪いのか、チンという音と共にエレベーターが私の部屋の階に到着してしまった。


どちらともなく手を繋ぎ、そしてエレベーターを降りた。
廊下には誰もいなくて、会社で貸切ったフロアにはどこからか賑やかな話し声も聞こえる。
だけど私たちはそんなの気にも留めていなかった。


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