ウサギとカメの物語 番外編


その夫婦というのは須和夫妻で、だいぶ世話になった奴らなのだ。
本社に異動になった俺と仲良くしてくれた事務課の彼ら。
俺がバイであるということも知っているし、むしろ旦那の柊平を好きだった時期もあるという。
いやはや、お恥ずかしい限りで。
まぁ、俺の失言により柊平は本社から泉営業所に異動になっちゃったんだけどね。


静と動、という言葉がピッタリ当てはまるその夫婦。
奥さんの梢は、ほんっとーにいい子で元気で明るい。ただし落ち着きがない。
柊平はほんっとーにいい奴で仕事も出来るしさりげなく優しい。ただしあまり動かない(動いちゃいるが基本のろい)。
対極にある2人がなんだかんだで仲良くやってるのを、俺は楽しく眺めていたのだけれど。


赤ちゃんを出産した梢が3ヶ月になる坊やを連れて、つい先日本社の事務所に遊びに来たんだ。
前々からその日に行くと言われていたから、俺は楽しみにしてたし出産祝いも用意してた。


なのに、なのに!
あろうことか当日に39度の高熱にぶっ倒れ、あえなく欠勤。
よって2人の可愛い可愛い赤ちゃんには会えなかったのだ………………。


ということで。
この晴れやかな初夏の日差しが眩しい日曜日。
俺はリベンジを果たすべく須和家へ向かっているのだった。


ん?約束してるのかって?
そんなもんしてないけど、どうにかなるっしょ!
あの2人なら「どうぞどうぞ!」って笑って迎え入れてくれるに違いない(梢が)。
で、冷たい麦茶とかアイスコーヒーとかを出して「よく来てくれたねー!」って言ってくれるに違いない(梢が)。


年賀状に書かれていた住所を頼りに、携帯にルート案内をしてもらいながら彼らのアパートへ歩く。
梢の親友でもあり俺の同僚でもある奈々から聞いた話だと、駅から歩いて5分ほどの場所にあるってことだ。
なかなか立地のいいところに住んでるんだなぁと感心したんだ。


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