めぐり逢えたのに
そのパーティーは、どうやら、佐々倉の父が家族ぐるみで交流のある友人の還暦の祝いらしかった。
お兄様が出席できないそうで、ピンチヒッターらしい。私は、快く返事をして、早速予定表にマークを入れた。

パーティーならば、服を買いにいかねば。ギャラリーの後、ブティック巡りだ、と私は張り切った。



マンションの入り口で佐々倉が回してくれた車に乗り込んで私たちはパーティーに向かった。

車の中では、佐々倉と私はいつものように、大急ぎで近況報告をしあった。
パーティーで不審がられない程度にはお互いのことを知っておいたほうがいい。これも何回かヒヤリとする経験を経て自然と生まれてきた、私たちの偽装結婚を円滑に続ける為の知恵だった。

「僕は、先月ワシントンに出張にいったよ。佐藤ばあからお土産受け取った?」

「ああ、あの、木のイースターエッグね?もらった。私、今度香港に友だちと行くんだけど、あなたと行く事になってるからよろしくね。」

「今度っていつ?」

「来週の週末。それから、ゴールデンウィークの予定はどうなってる?」

「特に何も。」

「わかった。じゃ、私も家にいる予定です、って言うから。」

こんな具合である。特に休みはどうするの、とか、佐々倉の出張の話などが出た時に、噛み合わないと不審がられるので、事前にチェックしておくのは鉄則であった。

お互いの近況が分からず、冷や汗をかきながら、こっそりテキストでききあったりしたこともある。

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