めぐり逢えたのに
つい先日のことである。
父が、いきなり「今度食事会に行くから」と言い出した。

私は、ああ、またいつものことね、と軽く流していたら、母が、やけに張り切って、服はどうするだの、やっぱり振り袖を用意しなくちゃだの、美容院の予約をとっただの、色々言ってくるから、何だか今回は妙に力が入ってない?ってちょっと不審に思っていたことは確かだった。

でも、こんなに本格的なお見合いなんて考えてもいなかった。

立派な料亭についてみれば、鯉など泳ぐ池を眺めながらの一席。
父と母の間に挟まれて席に着いたら、向こう側には見覚えのある顔の男がいた。

名前を聞いて思い出した。

「64」を一緒に(結果的にだが)見た、佐々倉直樹だった。

おまけに仲人らしき人までいた。名前を聞いてびっくりしたのだが、現職大臣の奥様だった。
それもそのはず、佐々倉直樹のお父様とおじいさまは国会議員(現職の)で、お兄様はお父様の後を継ぐべくお父様のもとで勉強されている、とのことだった。お母様のご実家も松方家の出身だった。

まあ、はっきり言えば格式ではうちもそうひけをとらないはずだ。祖父と父は戸川の創業者につながる内々の経営者だし、母だって華族の末裔だ。

でも、だからこそ、私はこのお見合いを断る事は難しいんじゃないかと瞬時に理解した。

今までのカジュアルなセッティングとは明らかに違う。父と母があちこち当たって、色々な大人の事情を勘案して一番有利な相手を探し当てたに違いないのだから。


私はため息しか出て来なかった。
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