きみと、春が降るこの場所で
雨が降りそうだから送っていくと、彰さんは詞織に顔を見せずに車を発進する。
「そういえば、詞織は朔くんがクリスマスに持って行ってくれたケーキの空き箱を大事に取ってあるんだが、知っていたか?」
「え、いや、そんなもん取ってられても」
知らなかった。てっきり捨てたもんだと思ってた、というか捨てるだろ普通。ゴミなんだから。
「プレゼントの包装も棚に入れていたよ」
「な、何で彰さんがそんな事を知ってるんですか」
「詞織が朔くんの話しかしないから。羨ましい」
羨ましいってそういう意味かよ。
どこまでも親バカというか、詞織も父さん大好きっ子だから、いい家族なんだけれど。
歩いて数十分の道のりは、車だとあっという間だ。
いつもの坂の下に横付けした車を降りる間際、彰さんに呼び止められる。
「詞織の事、よろしくな」
「…はい。彰さんはあまり無理をしないようにして下さい。クマすごいんで」
「ははっ、だろうな。たまにはゆっくり休んで詞織の所へ行くよ」
顔に滲んだ疲れの色は消えていないものの、少し元気なったな、彰さん。
テールランプが曲がり角に消えるまで見送って、坂道を上る。
見上げた夜空には幾つも星が瞬いて、月が爛々と輝いていた。
詞織も見ているんだろうか。
もしかしたら眠っているのかもしれないけれど、詞織の見る夢が楽しい夢であるといい。