小夜啼鳥が愛を詠う
「へえ~!人間国宝の窯のマーク入りとは。すごいすごい。……でも、この絵がいいね。野木なのに、ほのぼのしてる。」
椿さんはそう言って、お皿をしげしげと見つめた。

「うん。野木さんっぽくない。怖くない。……あったかい。春の野原?」

絵皿には柔らかい風景画のように図案が配置されていた。

若木と、椿の花と、桜の木。

「タイトルは、春秋先生が付けてくれた。『青い春』。」

……青春……か。

くさいベタなタイトルなのに、しみじみしてしまった。

「野木の分もある。3枚焼いてもらったから……割っても代わりはもうないから。」

「割らないよ。部屋に飾る。」
椿さんは、ちょっと涙ぐんでいた。

「私も。……割っても、金継ぎする。」

私がそう言うと、野木さんはパッと私を見た。

「次は、金彩にチャレンジするつもりなんだけど……以心伝心?」

「え!次があるの?すごい!」
さすがに驚いた。

野木さん、陶芸に……てゆーか、絵付けにハマったのかしら。

「うん。夏休みに長期でお世話になるつもり。……冬夏先生がご存命のうちに教えを請うといいって春秋先生が勧めてくれたから。」

そう言ってから、思い出したように野木さんは言った。

「大学も京都を受験することにした。明田さんと春秋先生の出身大学だし。……さくら女は決めた?」

う……。
決めてない。
てか、決めかねてる。

「とりあえず、神戸でしょ。」
ニヤニヤ笑って椿さんは指摘した。

「小門弟のそばがいい?……そんなことより、問題は、さくら女に明確な人生の目標がないことだと思う。」

野木さんにそう言われて、私はうなずいた。

「うん。そうなのよね。……ママのように教職を取るつもりだけど、教師になりたいわけでもないし。」

物心ついた時には、私は光くんの背中を見ていた。
ずっと、光くんのそばにいたかった。
光くんを支えて守りたかった。

まあ、今の光くん、けっこう不安定だから、結果的には、まさに今、その夢は続行してるような形になってたりするんだけど。

「でもさ、光くん、放置できないでしょ?どうするの?光くんと同じ大学行ったげたほうがいいんじゃない?」

椿さんは、菊地先輩が光くんを何やかやかまうのに感化されてるらしく、最近は光くんに対して同情的だ。

「簡単に言ってくれるわね。」

光くんと私じゃ、頭の出来が違う。
もちろん成績は大差ないように見えるかもしれない。
でも特別な試験勉強をしないのに常に一位の光くんと、毎日真面目にこつこつ勉強して、試験前にはほぼ徹夜でやっと二位をキープしてる私じゃ、全然違う。

……まあ……がんばってると思うよ、我ながら。
椿さんや、野木さんと違って、勉強しかやることないからかもしれないけど。

「野木も、小門兄を野に放つのは、よくないと思う。」
野木さんにまでそんなふうに言われ、私の進路はほぼ確定したようだ。

ふー。
もっともっとがんばらないと、ね。
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