小夜啼鳥が愛を詠う
私の物心つく前に、光くん一家は京都に引っ越してしまった。
光くんのパパとママは学生結婚で、2人とも京都の大学に合格したのを機に移り住んだらしい。

でも長いお休みには必ず神戸の実家に戻ってきた。
光くんのお家の山手のお屋敷や須磨の別荘、私のパパのお店……光くんと一緒だと、どこもまるで天国のように思えた。

その頃から、私は光くんが大好きだった。

同じマンションにも、パパのお店のある商店街にも、幼稚園にも男の子はいたけれど、光くんは異質な存在だ。

光くんほど、綺麗な男の子、いや存在を、私は他に見たことがない。
光くんほど、頭がいい子も知らない。
さらに、光くんは空手も習い始めて強くなった。

まさに才色兼備、文武両道……光くんは、カンペキだと思っていた。

けど、違った。
光くんは、実は、極度の人見知りだった。
それは、自閉症と診断されることもあるほどなんだそうだ。

実際、光くんは、家族以外は、ごくごく一部のヒトにしか心を開けない。

まだ5歳の薫くんが、10歳の光くんを守らなきゃ!……って、いつも背伸びしてるぐらいだから、かなり深刻なのだろう。

それに引き替え、薫くんは、やたらと明るく人なつっこい。
大人も子供も、薫くんの天真爛漫な笑顔には、心も頬も緩めてしまう。

そう言えば、初めて薫くんを視た時も、笑ったっけ。



薫くんの生まれた日のことは、かなり鮮明に覚えている。

光くんのママは、神戸の病院で出産した。
その日はパパのお店の定休日で、パパとママが光くんと私を六甲に連れてってくれた。
季節はずれの紫陽花が咲いてた。

「生まれた!」
突然そう言って、光くんは牧場を走り出した。

驚いて、パパが光くんのパパに電話したら、本当に薫くんが生まれてたらしい。
すぐに、病院に駆けつけた。

真っ赤な顔を猿のようにしわくちゃにして泣いていた薫くん。
なんだか人間に見えなくて、私は笑ってしまった。

光くんは笑顔だったけれど、その目に涙がにじんでいた。



「まあ……あの猿が……進化したものねえ。」

薫くんは前のめりで私の手を引いていた。

「猿ゆーな!」

私のつぶやきが聞こえたらしく、振り返って噛みつかんばかりに怒る薫くん。

まだ幼児だけど、整った顔立ちは、近い将来、イケメンになることを約束されているよう。
まあ、薫くんのパパもママも、意志の強そうな美男美女だもんね。
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