小夜啼鳥が愛を詠う
「ごめんごめん。でも、赤ちゃんなんて、みんなそうよ。私の写真も赤い土偶みたいだもん。」

「どぐう、ってなんや?」
薫くんが不思議そうに聞いた。

「んーと、昔の土人形?」
「ふーん。……後で調べる。どぐう、やな。」

そう繰り返してから、薫くんは笑顔で振り返った。

「桜子に似てるんやったら、かわいいんやろうな。どぐう!」

嫌味や冗談じゃない、100%の本心だった。

眩しい太陽のような笑顔に、私は気恥ずかしくなってしまう。

薫くんはいつもこうだ。
全力で、光くんや私を守り、好意を伝えてくれる。

だから、振り回されても、憎めない。
5歳も下の幼稚園児に、名前を呼び捨てにされてることにも、もう慣れちゃった。
何の衒(てら)いのない愛情をストレートにぶつけられることにも。


「かわいくは、ないかも。むしろ不気味よ。」
そう言ったけど、薫くんはニコニコと土偶土偶と繰り返していた。

……素直なイイ子なのよね、ほんと。



「ほら。ここ。登るで。」
薫くんは、私の手を引いて長い長い石段を登り始めた。

「え?ここって、お寺?」

来たことないけど、階段の下に、石碑にお寺の名前が刻まれていた気がする。

「うん。でもいつも誰もいいひんて。藤やんがゆーてた。」

ふじやん?

「だぁれ?お友達?」

……社交的な薫くんは、京都にも、神戸にも、須磨にもお友達がいっぱいいる。
一度遊ぶと、すぐにお友達になるんだもん。
ほんと、光くんとは対照的だわ。
私も……友達はあまり……ていうか、ほとんどいないので、うらやましいというか……不思議。

「うん。こないだ来た時、会うてん!俺の言葉が変やって、このへんの奴らに言われてんけど、藤やんが京都の言葉やって、ゆーてん。藤やんのお父さんも京都に住んでたことあるんやて。」
薫くんは活き活きとそう教えてくれた。

……なるほど。

確かに、薫くんの言葉は神戸の言葉とは微妙に違う。
まあでも、薫くんは生まれたのこそ神戸の病院だけど、京都で5歳まで育ってんだし、京都の言葉が身についてて当たり前だ。

……むしろ、光くんの甘えたような標準語に違和感ありありだわ。

光くんのパパもママもハッキリ神戸弁なのに、光くんだけ話し方が違う。

ほんと、光くん、不思議……。
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