小夜啼鳥が愛を詠う
「一緒。私も。……うれしいけど、恥ずかしい。でも、うれしい……。」
「ほんまや。一緒や。」

同じ気持ちを伝え合い、私たちはまた、幸せに満たされた。


冬の夕暮れは早い。
あっという間に、薄暗くなってきた。
さすがに、寒くなってきたかも。

「そろそろ戻る時間?」

そう聞いたら、薫くんは首を傾げた。

「まだいいやん。……桜子が寒いんやったら帰るけど。」

「ん?さっきのロシニョールって、ナイチンゲールでしょ?小夜啼鳥。……日が暮れる前に帰れ、って意味じゃなかったの?」

そう尋ねると、薫くんは、ちょっと笑った。

「そうや。ナイチンゲールのフランス語や。……でも、日本にはおらへん鳥やし、別にええやん。……それとも……玲子みたいに、啼かせてほしいんけ?」

「もう!薫くん、やらしいっ!」
思わず、突き飛ばすように両手で押した。

「……俺より、桜子のほうがガキみたい。うちのお母さんは、桜子の歳には、もう光を産んで、育てとったで。」

……う……確かに、そうかも。

「いいの!……私じゃなくて、薫くんの成長待ちなんだから。」

そう言い張って、立ち上がった。

「帰ろ。あんまり遅くなると、光くんだけじゃなくて、お父さんたちに対しても気まずくなっちゃう。」

薫くんは渋々立ち上がって、私の手を取った。



「俺の最初の記憶って、桜子やねん。」

波打ち際を歩きながら、薫くんが言った。

「そうなの?いつ?んー、3歳ぐらい?」

もう、鳥の声も聞こえない。
波の音と、国道を走る車のエンジン音、そして、薫くんの声だけ。

「2歳ぐらいから、断片的に。……でも、全部、桜子や。女神みたいに綺麗で優しくて、かわいかった。」

照れくさそうに薫くんは言った。

「過去形?」
私も照れくさくて、つい、そんなふうに聞いちゃった。

薫くんは、とっくに夕日も沈んだのに、まぶしそうにこっちを見た。

「進行形。……たぶん永遠。桜子が、かわいくてかわいくて、しょうがない。」

……言わせたくせに、私……恥ずかしすぎて、ジタバタしてしまう。

私は、誤魔化すように話した。

「薫くんもかわいかったよ。猿みたいに真っ赤な顔して泣いて……」

生まれたての薫くんを、新生児室の窓から見たことを思い出す。
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