小夜啼鳥が愛を詠う
なくした逸聞

薫くん、中学生になる

春休みが終わり、高校3年生になった。

担任となった教師は、始業式前のホームルームから、大学受験の話を始めた。

周囲も慌ただしく臨戦態勢に入っていくなか……光くんだけは、あくびをして窓の外の桜を眺めていた。

「光くん。先生が睨んでる。」
小声でそう注意したけれど
「……そう?早速、嫌われたかな。」
と、飄々とうそぶいて、光くんはすっくと席を立った。

「おい!そこ!何してる!」

目を三角にして怒る担任に、光くんは会釈して、教室を出て行ってしまった。

……あーあ。
うちのパパとの約束があるので、授業中はちゃんと教室にいるようになったんだけど、どうやらホームルームはカウントされないらしく、度々いなくなるのよね。

でも、初っぱなから堂々と……ほんと、困ったヒト。

「何だ!あいつは!天才だか何だか知らんが、ヒトとしてなっとらんわ!……おい、あいつに言っとけ。今年一年間、クラス委員長はあいつ、小門(こかど)にやらせるからな。副は……」
担任は、出席簿に目を落として、ニヤリと笑った。

……嫌な予感……。

「古城(こじょう)。小門とつきあってるそうだな。しっかり補佐してやれ。今日の放課後、あいつを連れて進路指導室に来るように。」
そう言って担任は、教室内を眺め渡した。

ひゅーひゅーと他の生徒にはやし立てられる中、私は渋々手を上げた。

本当は、私がつきあってるのは光くんの弟です!と言いたい。
でもまた、菊地先輩の時みたいに変なヒトに強引にせまられると面倒なので、今後も表向きは光くんと仲良しを続ける……まあ、実際、仲はいいんだけどさ。

「……不本意ですが、わかりました。」

そう言ったら、担任は満足そうに頷いた。


始業式が始まる前に、光くんを電話で呼び出す。

『やあ、さっちゃん。終わった?早かったね。』
まるで他人事のように、光くんは言った。

「ホームルームは終わったけど、これから始業式。そのあと、光くん、来てくれない?……あの先生、光くんをクラス委員長にしたの。私が副。……私に、光くんを連れてこい、って。助けて?」

ちょっと盛ってそう言うと、光くんはため息をついた。

『ひどいな。欠席裁判とか、横暴。しかも人質にさっちゃんとか。……わかった。この勝負が終わったら、戻るよ。』

……勝負?
近くの碁会所にいるのかな。

さすがに、パパのお店でサボるわけにはいかないか。

「ありがとう。お願いね。じゃあ、後で。」
『あ。さっちゃん。椿さん、まだ春休みだよね?忙しいかな?』

え?椿さん?
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