小夜啼鳥が愛を詠う
この頃、産婦人科の待合室や、一時預かりの乳児保育で、他の赤子と一緒になることがあった。

まるで動物のように、話が通じない、感情を伝えることすらままならない赤子は、僕にはストレスでしかなかった。

そんな中、1人だけ様子の違う赤子がいた。

無意味に泣き叫ぶことも、無駄にはしゃぐこともなく、ただ僕のことをジーッと観察しては笑顔になっていた小さな小さな女の子。

それが、さっちゃんだった。

さっちゃんは、お父さんのお父さんのお友達の子供で、僕らは互いに胎児の頃から逢っていたらしい。

僕より3ヶ月遅く生まれた綺麗な女の子を、あーちゃんはとりわけかわいがり……、たまに自分のおっぱいをあげていた。

正直なところ、僕はおもしろくなかった。

おっぱいどころか、あーちゃんが僕以外の赤子を抱くのも嫌だった。

あーちゃんは僕だけのモノだ……と、本気で憤慨していた。

でも、僕の憤懣は正確には、あーちゃんに伝わらなかった。

そのうち、僕もあきらめた。

諦めざるを得なかった。

小さくおとなしいさっちゃんを、憎むことなんてできなかった。

さっちゃんが僕を見て、うれしそうな顔をする……。

いつしか、僕は、そんなさっちゃんを好ましく……いや、愛しく感じていた。




あーちゃんは、僕を生んで半年後、高校に復帰した。

すると、今度は逆に、僕がさっちゃんのママからお乳をもらうことが増えた。

……たぶん、さっちゃんとは乳兄弟ということになるのだろう。

お互いに特別な存在であることは間違いなかった。




しばらくの間、日中は祖父母と過ごした。

祖父も祖母も、僕を愛してはいたけれど……その愛情は身勝手に歪んでいた。

僕を気遣って、お父さんが毎日来てくれていた。

……京都の大学に通いながら……それでも時間を作って、僕とあーちゃんに会いに来てくれたお父さん。


たまに、お父さんのお家や、別荘に泊まりに行った。

お父さんのお母さんは、優しい天使のようなヒトだ。

実の祖父母からは得られない陰日向ない穏やかな幸せを僕にくれた。




お父さんは、20歳になったその日に、あーちゃんと入籍した。

名実ともに家族となり、僕とあーちゃんは、お父さんの家に引っ越した。

毎日が幸せだった。
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