小夜啼鳥が愛を詠う
長ずるにつれて、さっちゃんと逢う頻度が増えた。

……というより、僕がさっちゃん以外の子供と交流できないことがわかってきて……唯一コミュニケーションを取れるさっちゃんでお友達を作る練習をさせられたのだろう。

あーちゃんやお父さんの意図はわかるけれど、期待に応えてあげることはできなかった。

僕は、他人が怖かった……。

ヒトの話を聞かない子も、自分の欲望のままに振る舞う子も、よく知らない相手に勝手に劣等感を抱く卑屈な子も、関わりたくなかった。



「子供同士がダメなら、オトナならどうや?」

自身もかつては人付き合いが苦手だったというお父さんは、僕に囲碁や連珠を教えた。

運否天賦が勝敗の大きなファクターとなるゲームと違って、実力のみで勝敗を決するこの遊びは、強烈に僕の心を捉えた。

ただ、お父さんは、強かった……いや、強すぎた。

文字通り、赤子の手を捻るように、僕を圧倒し続けた。

「頼之さん……大人げない……。」

あーちゃんは、そんなお父さんに多少呆れていたようだったけれど。

かくいう、あーちゃんも強かった……。

連珠はお父さんのほうが得意で、囲碁はあーちゃんが勝つようだ。

2人に揉まれて、僕はいつの間にか腕を上げていた。



両親がそれぞれの学生生活を送っている日中、おばあちゃんはよく僕を会所に連れて行ってくれた。

碁会所も、連珠教室もお年寄りが多く、僕は比較的ストレスを受けずにゲームに集中できた。

……でも、両親より強い相手は、ごくわずか。

ここで僕ははじめて、自分の両親と僕自身が人並みはずれた頭脳を持っていることを自覚した。


そして同時に、今まで怖いと思っていた他の子供たちとの絶望的な距離を感じた。

見下すとか、優越感にひたる余裕はなかった。

ただ……ますます近寄れなくなってしまった……。




たった1人だけ、僕が僕のままでいられる、大切な少女。

さっちゃんがいれば、他に誰もいらない。

不思議と、さっちゃんだけが対等な存在と認識していた。


さっちゃんは、単に容姿がととのっていて、かわいいというだけじゃない。

本人は気づいてないけれど、とても頭がよくて、いろんな話をしていても理解力があるのでストレスがない。

何よりの美徳は、気持ちが優しいことだろう。



さっちゃんは、物心ついた時には僕が好きだったらしいけれど、僕のほうはそんなもんじゃない。


繰り返すが、物心つく前から、さっちゃんは僕のものだった。

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