小夜啼鳥が愛を詠う
菊地先輩は、肩をすくめて、首をコキュコキュ言わせながら回した。
「了解。……でも、代わりに、自分、どうや?俺、自分やったら、男でもやりたいわ。」

「ほうっ!」
背後で野木さんが過剰に反応した。

「……菊地先輩、頭のいい美人が好きなんだって。……あ。菊地先輩。こちらが、本当の入試トップです。私は、代理。」
思わずそう紹介した。

「なるほど。僕のほうが該当するね。……じゃあ、今後襲うなら、桜子じゃなくて僕にしてくださいね。菊地先輩。そうやすやすと、やられませんけどね。」
光くんは挑戦的に笑ってそう言った。

菊地先輩は、鼻で笑って、片手を上げて、また地下通路に戻って行った。

……変なヒトだ。
いや、光くんのほうが変だけどさ。



「……大変だったな。学校と警察に報告したほうがいいんじゃないか。」
ようやく落ち着いた頃、明田先生がそう言った。

「ほんと。びっくりした。ほら、野木なんか、まだ興奮して震えてる。明田さんも、顔色悪いみたい。」

野木さんの言葉に、明田先生が頭を下げた。

「いや。面目ない。本来なら俺が止めなきゃいけないのに。すまない。」

「先生!そんな!……私に隙があったんだと思います。ごめんなさい。」
慌ててそう謝った。

「そうだよ。さっちゃんが悪い。生徒会、さっさと断らないから。こんな遅くに独りでふらふら歩いてたら、そりゃ、危ないよ。さっちゃんは綺麗なお嬢さんなんだから。気をつけないと。……これからは、中学の時みたいに、帰りも僕が送るから。」
独り、光くんだけがマイペースに怒っていた。

こんな遅くって、まだ、18時にもなってないんだけどね。
パパより厳しいわ、光くん。

「光くんのほうが綺麗だけどね。」
言い返せないので、くやしまぎれにそうぼやいた。

光くんは肩をすくめてから、なだめるように私の手を取り、背中を撫でた。
いつも通り手をつなぐより、なんとなくレベルアップした気がした。



「それにしても、ひどいな。さっちゃん。数え切れないぐらいキスしてきたじゃない。忘れたの?」
なぜかパパのお店に移動してから、光くんがそうぼやいた。

カウンターの奥でパパがグラスを落とし、明田先生がコーヒーにむせて咳き込んだ。

チャンス!とばかりに、野木さんが明田先生の背中をさする。
明田先生は涙目で、野木さんに
「いや。すまない。大丈夫だから。」
と、訴えた。

「……それって、子供の時の話でしょ?たぶん幼稚園ぐらいまで?」
パパの反応を気にしながら、そう答えた。

「うん。そうだね。薫が生まれてからは、しなくなったねー。薫が焼き餅焼くから。……今日のも、内緒ね。」
光くんは、ふふっと笑ってそう言った。

「今日?」
めっちゃ低い声で、パパが反復してつぶやいた。

怖いんですけどぉ。
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