彼女のことは俺が守る【完全版】
『負けるな』


 海斗さんの強い意思を感じる。私を見つめる瞳は私の折れそうな心を支え、今、この場に立たせてくれていた。思い出せば、楽しかった日々もあった。でも、あの喫茶店での瞬間から、この二人とは笑い合うことは二度とないだろう。


 数えきれない思い出も全てはこの場に捨てていく。もう後ろは振り向きたくない。そんな思いが軽く息を吐いてからしっかりと二人を見つめることが出来た。


「結婚おめでとう。幸せになってね」


 やっとの思いで声に出すと苦しさが私を包んだ。大好きだった人と友達の結婚式でお祝いの言葉を述べることがこんなにも苦しく大変だとは思わなかった。結婚式に出るつもりだったのに、海斗さんの機転でこのお祝いの言葉さえ言えれば、この場を去ることが出来る。


 そう思うと私は一度だけニッコリと笑えた。これは私の意地でもあった。優斗に振られ、友達を失った私に残された最後の意地。それは真っ直ぐに見つめ、後悔を残さないようにすることだけだった。


 優斗に未練はない。


 でも、傷つけられた心が痛いのは誤魔化しきれない事実として残る。


「俺がここにいると大事な結婚式に迷惑が掛かるから申し訳ない。里桜も、お祝いを言ったからもう行こう。せっかくのオフは里桜とゆっくりしたい」


 私はこの場で海斗さんがいてくれることがこんなにも心強くいられるのかを改めて思う。甘い言葉に癒され、私は前を向いて行くことが出来る。私の苦しみから搾り出した言葉の痛みを海斗さんはわかってくれているのだと思う。

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