彼女のことは俺が守る【完全版】
 その言葉に誘われるように私の身体は海斗さんの腕の中に納まった。海斗さんの逞しい胸に頬を寄せると、海斗さんの鼓動が聞こえる。少し早目のリズムを聞きながら目を閉じると、バリトンの声が甘く響いた。


「我慢する必要ないから泣いていい」


 それだけ言うと、私の返事を待たずにキュッと腕の力を込めたのだった。海斗さんの温もりと爽やかな柑橘系の香りに包まれた私は安心して、肩の力も心の箍も外れたのか一気に涙が零れだす。一度関を切ったものは自分の意思ではもう止められない。流れるだけ涙を流し、枯れるまで待つしかない。


 私は優斗のことも元友達のことも、今日の結婚式で向けられた鋭い視線も全て洗い流すように涙が零れた。海斗さんの紺色のシャツが濃紺に変わるくらいに私の涙を吸い込んでいく。胸元が濡れているのに、海斗さんは泣いている私をギュッと抱きしめたまま、ゆっくりと、髪を、背中を優しく撫でるだけ。



 その優しい手の温もりに私は泣きながら意識が遠のいて行く。今、私が感じるのは海斗さんの優しい手の動きと身体を包む温もりだけだった。


「里桜、早く……なれ…よ」



 海斗さんの切なく甘い声が聞こえた気がしたけど、私はそこからの記憶が曖昧だった。


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