彼女のことは俺が守る【完全版】
 海斗さんのマンションの玄関で私は海斗さんに抱き寄せられている。それでも私が少しでも嫌がれば逃げられるほどの緩い拘束。一歩足を踏み出すだけで私は自由になれるだろう。それでも私の足は全く動かない。この優しさに私の心は簡単に揺らされる。頑張って自分を奮い立たせても足下から崩れ落ちそうだった。


 今は海斗さんに甘えてもいいだろうか?


「俺は大事な女しか慰めたりしないよ。里桜が慰めて欲しいと思うなら涙が枯れるまで側にいるよ」


 海斗さんの言葉は麻薬のように私の心に沁み込んでいく。今日は一人では泣くのは辛すぎる。かといって、海斗さんにそこまでして貰うのは申し訳ない気もする。海斗さんと私は偽装結婚をしようとしているだけで、本当の婚約者でも何もない。でも、海斗さんの優しさが流れる涙と止めることも出来ずに頬を伝い、海斗さんのスーツの上まで転がり落ちた。


 本当に海斗さんの優しさは…私の理性も何もかもを消してしまう。


「…側にいて」 


 零れ落ちた私の言葉を海斗さんは受け止めてくれた。私の身体の拘束を緩めたかと思うと、手を引き、リビングに連れて行く。そして、ジャケットを脱ぎ捨て、ソファに座るとゆっくりと両手を広げた。


「里桜。おいで」
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