彼女のことは俺が守る【完全版】
 あれだけ優しくされたのだから、海斗さんも私のことを嫌ってはないだろう。でも、これは偽装結婚の為に優しくしてくれるだけ。そう思うと、心のどこが痛む。好きだけど決してこの思いは海斗さんに知られてはいけない。


 好きだから、少しでも一緒に居たいから…この思いは私の胸の奥に沈めるしかない。それが海斗さんの為には一番いいと思う。そして、海斗さんに好きな人が出来た時、私は笑って海斗さんの幸せを祈りながら離れることが出来るだろう。


 誰よりも優しい人に一番幸せになって欲しいと心から思った。


 ゆっくりと身体を起こした私はベッドから出ると窓辺に向かって歩き出した。閉められたカーテンを開くと、想像通りに真っ暗で、でも…真っ暗な中にも月の光がサッと部屋の中を青白く満たしていく。月の綺麗な夜だった。私の気持ちはこの月の光のように優しく海斗さんを包むことが出来ればいい。


 偽装結婚によって海斗さんの仕事が上手くいくならそれでいい。少しでも私の存在が役に立つならそれでいい。そして、私の存在がいらなくなった時は海斗さんの幸せを思えば、いい思い出として私は姿を消すことも出来る。



『偽装結婚』という言葉の痛みは…私の恋の自覚と共に重く圧し掛かってくる。


 別れる時は辛くなるだろう。でも、今の私は海斗さんの傍に居たいと思う。どんな苦しい別れが待っていようとも今は少しでも傍に居れたらと思う。
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