彼女のことは俺が守る【完全版】
 リビングに行くとそこにはソファに座った海斗さんが居た。さっきのフォーマルなスーツから普段着に着替えた海斗さんはいつもの穏やかな表情で私を見つめていた。私があれだけ泣いたのも全く気にしてないようでいつも通りだった。


「シャワー浴びて着替えたら食事に行かないか?焼肉なんかどう?」


「え。焼肉?」


「元気を出すには肉を食わないとな。俺の知っている美味しい店がある。里桜がよかったらそこに行きたいけど。でも、別に絶対というわけではないから、里桜の好きな和食の店でもいいよ」


 海斗さんの笑顔や優しさに私は一瞬誤解しそうになった。もしかしたら『好意以上の物を持っている?』と。でも、そんなはずがないのは私が一番分かっている。これは『偽装結婚』を上手くやっていくために海斗さんが気を使ってくれているもの。契約であって思いやりなだけ。それだとしても私は嬉しいと思った。


「焼肉楽しみです。シャワー浴びて着替えてきます。ちょっと時間が掛かりますがいいですか?」


「それはいいよ」


「はい。ありがとうございます」


 そんな海斗さんの言葉に私は笑えたと思う。


 雅さんの施してくれた化粧を落とすのは勿体ない気もするけど、泣いて剥げてしまっているから、一気に落としてドレスも脱ぎ去ってありのままの私になる方がいい。鏡に映る私は目を真っ赤にしていて、今にも泣きそうだった。泣いていたから真っ赤なのか、それとも海斗さんのことを思い真っ赤なのか…。

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