彼女のことは俺が守る【完全版】
 彼女の横に座っている男は私の彼。優斗のそっくりさんではない。優斗本人だ。


「意味が全く分からないんだけど」


 分からないのではなく認めたくない。こんな状況は嘘であって欲しいと心から思う。でも、一度目を閉じて開いてみても目の前の二人は消えてくれなかった。残酷な現実はこれで終わりではなく、これが序章だったと分かるのは何分もしないうちのこと。


 相手が優斗でなかったら私は心から友達を祝福したと思う。でも、今の私にそんなことは出来ない。出来るわけはない。


「優斗くんの赤ちゃんがお腹にいるの。産みたいって言ったら、優斗くんも産んで欲しいって」


 そう言って私の方に可愛らしく顔を桃色に染め見つめる。そして、追い打ちを掛けるように優斗が言葉を出す。でも、その言葉には私に対する思いやりは微塵もなかったと思うくらいに淡々と答えたのだった。わざとではなく私に対する思いは全く感じられなかった。


「里桜と別れたい。というか、結婚するから付き合えないだろ」


 これまで一緒に積み重ねてきた時間は何だったのだろう。こんな風に簡単に人を傷つけることの出来る人だったのだろうか?あんなに優しく思いやりに溢れた優斗とここにいる優斗は別人ではないかと思ってしまう。


 彼女の横で笑う優斗に私は恋心を抱いていた。三年という月日は決して短い期間じゃない。私は真剣に付き合ってきた。それなのに、私を好きだと、愛していると言った唇が私を拒絶する言葉を紡ぐなんて思わなかった。
< 17 / 188 >

この作品をシェア

pagetop