彼女のことは俺が守る【完全版】
「もう大丈夫です」


 私がそう言っても海斗さんは腕の力を緩めてくれることはなく。キュッと抱き寄せられたまま。私の心臓の音がきっと海斗さんにも聞こえているだろう。それでも、海斗さんは放してくれない。


「もう大丈夫ですよ。海斗さん?」


「里桜」


 海斗さんが腕の力を緩めたのはそれからすぐだった。パッと身を翻し、私との距離を取った。そして、妙に真面目な表情を私に見せる。マンションの廊下に座ったままの私の前に海斗さんは座り、目線を合わせてきた。そして、ゆっくりと大きな手で私の手を包む。


「里桜は今日から俺の妻だけどいいのか?」


「うん。自分で決めたから」


「ごめんな。いつか落ち着いたら離婚しよう」


「……うん」


 海斗さんの言っている意味は分かる。これは偽装結婚なのだから、期限があるということ。ほとぼりが冷めたら離婚することになる。まだ、キスさえしたことのない海斗さんは戸籍上の旦那様ということになっている。でも、私は自分の口から海斗さんが好きだとさえ言えてない。『落ち着いたら離婚』と言っているのに、今更自分の口から『好き』だなんて言えない。


 誰よりも好きなのに。


 自分の気持ちを上手に伝えることが出来ない。頭の中で言葉が纏まらずに消えて行く。


「先にシャワー浴びてきていいですか」
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