彼女のことは俺が守る【完全版】
「ああ。構わないよ。リビングに飲み物を用意しておくけど、里桜は何がいい?」


「普通のお茶で」


「ああ、分かった」


 バスルームに入ると、ドレスを脱いで髪を解いて、頭の上から熱いシャワーを浴びる。そして、気が緩んだ私はシャワーのお湯と一緒に涙を溢れさせたのだった。涙が止まらない。我慢していたのが一気に気持ちが流れ落ちる。


 今日の会見と、婚姻届を提出したことによって私の役目は終わったのと一緒だった。海斗さんは私のことを好きだと言ってくれたけど、それは、きっとこうやって一緒にいるからであって、長く続くのか分からない。

 
 海斗さんが好きなのに、自分の気持ちを言うことが出来ない。結婚した夜に大好きな人の口から離婚という言葉が出てしまった。海斗さんは私のことを思って言ってくれているのは分かるけど、それでも『離婚』という言葉は辛すぎた。


 私の気持ちはどこに持って行けばいいのだろう。行き場のない思いを私は自分で抱きしめるしかなかった。


 自分の気持ちを落ち着けるのに思ったよりも時間が掛かってしまったと思う。髪を乾かしてからバスルームを出ると、廊下の壁に海斗さんが寄りかかっていた。そして、真剣な瞳を私に向けるのだった。いつもの穏やかな表情はなく、そこにあるのは真剣な眼差しだけ。


「何を泣いている。泣くほどのことがあるなら俺に話して欲しい。俺は里桜の為に出来ることは何でもする」
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