彼女のことは俺が守る【完全版】
「いいよ」


「何で私なのですか?」


「それって結婚のこと?」


「はい。篠崎さんなら他にいくらでもいそうなのに何で私なんだろうって」


「単なる勘だよ。里桜なら上手くやっていけると思っただけ。それと、きちんと名前で呼ばないならこれからは応えないよ。じゃ、夜も遅いからおやすみ」


 そういうと本当に篠崎海は部屋を出て行ってしまった。


 私には篠崎海が勘とかで動くような人には見えない。少し話しただけだから良くは分からないけど思慮深い人にさえ見える。きっと、あの状態の私を見て、同情したのだろう。偽装結婚なんて私には出来そうもない。今晩だけ甘えて、明日の朝にアパートに帰ろうと思った。


 壁にある鏡で自分の顔を見て驚いた。


 目は泣き腫らして真っ赤だし、目蓋も覆いかぶさるほどではないものの腫れている。少し冷やして寝ないと大変なことになる。タオルを借りようと思ってゲストルームを出ると、廊下は淡い足下灯が光るだけでリビングの明かりも消えていた。篠崎海はすでに自分の寝室に入ったのだろう。


 私はバスルームに行くと真っ白なタオルが目に入った。棚には篠崎海が使うと思われるタオルが置いてあるから、これは私の為に用意してくれたのだろう。私はハンドタオルと水に濡らしてからゲストルームに戻り、少しだけ目を冷やしてからベッドに入ることにした。


 木曜日からずっと寝れなかったのにベッドに入ると私はゆっくりと目を閉じることが出来た。フカフカの布団からは温かいお日様の匂いがする。篠崎海は誰も使ってないとはいうけど、十分に手を入れられているのは間違いなかった。


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