彼女のことは俺が守る【完全版】
「かしこまりました。先ほどお嬢様の指のサイズを測らせて貰いましたので、早速工房で準備をさせます。伝票と鑑定書をご用意しますので少々お待ちくださいませ」


 店長は優雅に頭を下げると、テーブルの上に置かれていた黒のビロード張りの箱は他の女性社員によって下げられていき、代わりにテーブルの上にはコーヒーが用意されたのだった。


 私と篠崎海の座っているソファの横にある一人掛け用のソファに高取さんが座ると、高取さんはニッコリと微笑んだ。


「気に入るのがあってよかったです。今回の件に関しては社長が経費で落としてもいいという承諾を貰っていますので、後から領収書を私に下さい。決済をしておきます」


「その必要はない。里桜のものは俺が買う」


「しかし、かなりの値段になると思います。ここは社長に甘えてもいいのではないでしょうか?今回の話は元々、社長が海の仕事を上手くいかせるためにと言い出したことでもあります。偽装としてですので」


「高取!」


 篠崎海は鋭い声をその場に響かせた。


 それ以上は言うなとでも言うべき響きを含んだ声に高取さんは小さく息を吐くと、肩を少しだけ落としたのだった。


「わかりました。社長にはそのように報告しておきます」


 そんな話をしていると、先ほど席を外した店長が戻ってきて、篠崎海の前に革張りのケースに入れられた請求書を持ってきたのだった。それを、篠崎海は開き、表情を変えずに自分の胸ポケットから財布を取りだし、その中から一枚のカードを取り出したのだった。

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