彼女のことは俺が守る【完全版】
「里桜ちゃん。私がついてくるのはここまで、後は楽しむことだけを考えてね」


 雅さんに着せられたワンピースに綺麗にセットされた髪とメイクは全て篠崎さんと二人で食事をするためだけのものだった。会社帰りの恰好では浮いてしまうからだとあんまり深く考えてなかったけど、考えてみればこんなに念入りなメイクをする必要はない。これは私と篠崎海のたった二人だけの食事の為だけに用意されたものだった。


 それが分かった今、四人がいいというわけにもいかない。


「里桜さんの荷物は全て海の部屋に運んでおきますのでゆっくりと楽しまれてくださいね。帰りは申し訳ないですが、迎えに来れないのでよろしくお願いします」


 高取さんの言葉の言外に『今日はお二人でごゆっくり』ということなのだろう。でも、それは私にとって緊張の始まりでもある。でも、二人は待ってはくれる気配はない。


「高取さん。ありがとうございました。雅さんも今日はありがとうございました」


「いいのよ。私も楽しかったし。じゃ、里桜ちゃん。またね」


 そういうと雅さんと高取さんは並んで行ってしまった。そんな後姿を見ながら私はフッと息を吐く。たった一人になると緊張が襲ってくる。私はそんな緊張を押し付けるように胸の中にしまうとゆっくりとレストランの中に歩き出したのだった。


 ホテルの最上階にあるレストランは静かな空間だった。

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