彼女のことは俺が守る【完全版】
 レストランに入ってすぐに目の前に開かれた光の宝石箱に目を奪われる。夜景というのがこのレストランの素敵なところだと思う。レストランの落ち着きながらも印象的な内装は重厚さを見せつけ、私はこのレストランに足を踏み入れた途端、胸が高鳴りだしたのだった。


 篠崎海はそのレストランの奥の方にある窓際の席に座っていた。


 篠崎海は窓の向こうに見える夜景を見ながら静かな時間を過ごしていた。さっきまで普段着だったのに、今は少し改まったスーツを着て、もちろんタイもしている。天井から淡く光が落ちてきて、少し流した髪に艶を見せていた。その光の中には綺麗な篠崎海の横顔が私には眩く見えた。


 何を考えているのか、少し憂いを帯びた表情は一枚の絵画のように私の視線の全てを奪っていく。


 美しさという表現を男の人に使うのはおかしいかもしれないけど、その場にいる篠崎海は美しく魅力的な姿をしていた。篠崎海は案内されてきた私に気付くとさっきまでの憂いを一瞬で払拭したかと思うと、穏やかな微笑みを浮かべた。


「里桜。早く座って。お腹空いたろ」


 篠崎海の声に促されるように目の前に座ると緊張が一気にピークに達した。優しいバリトンの声が最大級の破壊力を持って私を包んでいく。言葉の発し方を忘れた私は篠崎海のことを馬鹿みたいに見つめるしか出来なかった。もっと言わないといけないこともたくさんあるのに、全てが吹き飛んでしまっていた。


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