彼女は僕を「君」と呼ぶ
上げていた踵を落としてこちらを振り返った。

彼女の顔の特徴を一つ上げるとすると、大きな黒目だろうか。それはまるで鏡。

こちらを向かせるのは至難の業だというのに、いざこうして見られてしまえば、途端に分らなくなってしまう。

「...君には似合わないと思う」

身体だけではなく、心にも冷たい風が吹く。

じっと見つめていた間は、何を思ったのだろうか。小野寺教諭のスーツを維にあてがっていたのか、それとも、オブラートに包もうとしたのか。

結果は惨敗。喪失感が酷いものだ。

彼女なりの維へのアドバイスだったのかもしれないが、どちらかと言えば、小野寺教諭に並ぼうなんて百年早いわ。とでも言われている雰囲気さえあった。

「あぁ、うん。紺色はおれには似合わないかも」

既にまた背伸びをし始めた彼女に、届いたかどうかは分からないが肯定を述べておく。

悴んだ手を揉んだ。胸の痛さを緩和する為だ。

どうして勝手に傷つけなければならないのだろう。それくらいは思わせてほしい。
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