彼女は僕を「君」と呼ぶ
音を立てた風船
クラスにノートを置きに戻り、購買部へと足を向けた。

昼休みもまだ半分以上残っている。彼女はもう昼食は済ませてしまっただろうか。

北側一階に席を置く購買部は、渡り廊下へ向かうには近くていい。

何時も通りの階段、違ったのは彼女が上から降りてきたことくらい。

踊り場の窓から差し込む日差しが彼女の輪郭を縁取る。

「珍しいね、この時間に満島さんが此処に居るなんて」

そもそも、あの渡り廊下以外で会う事の方が少ない、なによりこの時間はたっぷりと小野寺教諭を見れるのだから。


階段の上に居る彼女を必然的に見上げる形になる。

見慣れない目線が突き刺さる様に降り注がれる。その瞳に映れる事は光栄なのだけれど、どうしてか背筋が冷たくなる。

自分を迎えに此処までくる事はない。まず、ない。
何か、彼女にしただろか。

「あ、そうだ」

ポケットのフルーツオレを思い出し、手を伸ばす。何度か彼女が飲んでいたのを覚えているから嫌いではない筈だ。

それに、小野寺教諭に貰ったと添えればきっと嫌いでも飲むだろう。

維がポケットに手を入れると、冷たい空気が充満した空間がピリ、と波打った。
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