アタシ、好きって言った?
たくみと僕
「東京へ行こう」
バンドがやりたかった。

杉並区の古いアパートを契約した。
「ガレージも借りたいんですが・・・」
「んー、その金額じゃあガレージは無理だね」
「・・・そうですか。分かりました」

バイクを置く場所がない。

16歳の時に僕は左目を失った。
バイクに乗りたくて3度の手術に耐えたけど、結局左目は見えないままだった。
先生が言った。
「免許は大丈夫だよ。視野検査で通るから」
僕は嬉しかった。
左目なんてどうでもよくなった。
18歳になりすぐに大型二輪を取得した。
60回払いのローンを組み、初めてのハーレーを手にいれた。

いつも一緒だった。
東京での生活でもバイクを手放すなんて考えられなかった。

しばらくはアパートの中に入れていた。

募集したバンドメンバーの初顔合わせの場所に着いて驚いた。

みんながハーレーに乗っていた。
「君がシン君?俺、ボーカルのたくみ。
珍しいペダル付けてるんだね!」

古い革ジャンのボロボロの袖を覗かせて、彼は片手を差し出した。
「よろしく!君のショベルも綺麗だね」
たくみは笑った。

たくみ以外はみんな地方から上京していた。
「みんな俺のガレージにバイク置きなよ。防犯バッチリだからさ!」

仕事が休みの時は、たくみのガレージにみんな集まった。
好きな音楽にバイクの話。
「なぁ、アメリカ行こうぜ!」
酔うとたくみは必ずそう言った。
でも、みんなたくみが言うならとまんざらでもなかった。

「来週、シン君の田舎にみんなで行こうよ?俺、山とか川で遊びたいんだ!」

無邪気に笑顔を見せるたくみがとても素敵だった。

「もし俺に何かあったらシン君俺のバイク乗ってね?こいつにたくさん山や川や海を見せてあげて!」
「コンクリートジャングルだけじゃ可哀想だからさ!」
「お袋に頼んどくからさ」


傷だらけの部品を外し、新しいパーツを付ける。
涙があちこちに落ちた。
「たくみ・・・」
ナツに逢いに行く為にバイクを直している自分が嫌だった。
バンドメンバーは
「理由は何でもイイから前に進めよ?
足りないパーツあれば送るよ」
僕にそう言った。
あいつのバイクで走りたい。
新しい自分を見せたいんだ。
そして、山や川や海をあいつに見せたかった。
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