キミが欲しい、とキスが言う

言い合いをしている私たちは、おそらく目立っていたのだろう。
保護者の中の誰かが、余計な気を利かせて呼んできたのかもしれない。


「……お母さん?」


背後から、プールに向かったはずの浅黄の声が聞こえた。
目の前のダニエルが、魅入られたように立ち尽くしている。


「浅黄、あっち行ってて」

「アサギっていうのか? やっぱり僕の子じゃないか」


ダニエルは私を押しのけるようにして浅黄のもとへ行くと、彼を抱きしめる。

重なる金の髪。戸惑う浅黄に、無理矢理おでこを押し付けるダニエル。
何度か想像したことのある光景を実際に見たとき、想像していたような嬉しさは無かった。むしろ、血が下がっていくような感覚に吐き気がしてくる。


「離して。浅黄をこっちに渡して」


気が付けば、私は彼につかみかかっていた。
あんなに愛おしかった金の髪が、今は憎らしい。

終わっていたんだ、と思い知った。
再会が嬉しいとは思えない。あの時私を捨てて行った男だという想いがどうしても消せない。


「アカネ、落ち着いてほしい。俺は君をずっと忘れられなかった。忘れようとしたけど無理だったんだよ。もし子供が出来ていたと知っていたら、すぐにでも戻ってきた」

「嘘つき。連絡先一つよこさなかったくせに」

「お、お母さん」


怯えた様子の浅黄が、ダニエルの腕から逃れ、私の腕にぎゅっと捕まる。私も、浅黄が消えてしまわないように力いっぱい抱きしめた。
ダニエルは、傷ついたような表情のまま、今度はゆっくり両手を広げて、彼を迎え入れる仕草をした。

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