キミが欲しい、とキスが言う




 リビングの方を向くと、くつろいだ様子でテレビを見ながら壁にもたれる馬場くんが視線を向けた。


「……寝た?」


遅めの夕食を食べ、お風呂を済ませた浅黄は、昼間の疲れもあってかすぐに寝入ってしまった。


「みたい。早かったわ」


寝室とリビングの間のふすまを閉め、私はグラスにふたりぶんの麦茶を入れる。


「お茶とかいいし、こっち座れば」

「うん。まあでも入れちゃったから、どうぞ」


テーブルにグラスを乗せると、カラン、と氷が音を立てる。
その途端、馬場くんに腕を引っ張られて、座っている彼の両足の間に挟まれた状態になる。
よけようと思ったのもつかの間、馬場くんの腕が私を閉じ込めた。


「あの……」

「いいでしょ。もう浅黄寝たし」

「いきなりがっつかないでよ」

「いきなりでもないよ。俺、結構我慢したと思うけど」

「そりゃ……」


言葉は途中で遮られる。密着した体を少し離し、彼は右手で私の顎を持ち上げ、唇を重ねてきた。
もう一方の手が髪を撫でる。キスしているだけなのに、体が疼く感覚がした。


「もう一回言ってよ。好きだって」

「嫌よ、恥ずかしい」

「聞きたい」


髪を、体を、優しく撫でながら、彼の言葉が耳をくすぐる。


「……抱いていい?」


ぽそりと耳打ちされた言葉に、小さく頷いた。
訪れた安堵感に、自分もその時を待っていたことを知る。

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